2025/03/02 18:00



はじめに


本レポートは、Colmanら(2009)の論文「Caloric restriction delays disease onset and mortality in rhesus monkeys」(Science, 325(5937), 201-204)を基に、研究の内容を翻訳・要約したものです。


背景


カロリー制限(栄養失調にならない範囲で摂取カロリーを減らすこと)は、
1935年のネズミの実験で寿命を延ばし老化を遅らせる効果が初めて示されました。
その後、酵母やハエ、マウスなど様々な生物で、カロリー制限により平均寿命や最大寿命が伸びることが確認されています。
しかし、霊長類(サルやヒトの仲間)で同じ効果があるかは長年はっきりしていませんでした。
人間に近い動物で効果があるか調べることは、「カロリー制限で本当に老化が遅れるのか?」を理解する上で重要でした。


研究の目的


この研究では、ヒトに近いサルであるアカゲザル(Macaca mulatta)を使い、
カロリー制限が老化に伴う変化や寿命にどのような影響を与えるかを長期間追跡して調べました。
具体的には、通常のエサを食べるサルのグループと、エサの量を約30%減らしたグループを比べて、
年を取るにつれて現れる病気(糖尿病やがん、心臓病、脳の萎縮など)の発症時期や死亡率に違いが出るかを検証しました。
研究開始時、サルたちは7~14歳の成獣で、最長20年間にわたり健康状態を観察しました。


主要な発見1

サルの健康状態と見た目の違い


カロリー制限をしたサルは歳をとっても健康で、見た目にも普通の食事のサルより若々しい傾向が見られました。
通常の食事を与えたサルは毛が薄く痩せて老いた印象でしたが、カロリー制限したサルは毛並みも良く引き締まっており、同じ年齢でも若々しく見えました。


主要な発見2

寿命(生存率)の延長


カロリー制限をしたグループでは、生存率が明らかに向上しました。
通常食のサルは生存率が約50%だったのに対し、カロリー制限食のサルは約80%が生存していました。
特に老化に関連する原因で死亡した割合は、通常食グループでは37%、カロリー制限グループでは13%と大きく低下しました。


主要な発見3

老化関連疾患の発症遅延


カロリー制限により加齢に伴う病気の発症が遅れ、その発生率も減少しました。

・糖尿病
通常食のサルの一部が糖尿病を発症したのに対し、カロリー制限したサルでは一例も発症しませんでした。

・がん
カロリー制限したサルでは、通常食のサルに比べてがんの発生率が約50%減少しました。

・心血管疾患
カロリー制限したサルでは、発症率が約50%減少しました。

・脳の萎縮
通常食のサルでは加齢に伴い脳の体積が減少しましたが、カロリー制限したサルでは脳の重要な領域の萎縮が有意に少なく、
年をとっても脳のボリュームが保たれていました。


結論


20年にわたる追跡研究の結果、適度なカロリー制限(約3割摂取カロリーを減らす)によって、
サルの老化現象(病気や死亡)が明らかに遅れることが確認されました。
カロリーを減らしたサルは、健康でいる期間が延び、寿命も長くなる傾向が見られました。

この成果は人間の老化研究にも大きな示唆を与えます。
アカゲザルは人間と体の構造や代謝が似ているため、カロリー制限の有益な効果は人間でも起こり得るかもしれません。
「食べ過ぎないこと」が健康長寿につながる可能性が科学的に裏付けられたと言えます。


参考文献


Colman, R. J., Anderson, R. M., Johnson, S. C., Kastman, E. K., Kosmatka, K. J., Beasley, T. M., ... & Weindruch, R. (2009).
Caloric restriction delays disease onset and mortality in rhesus monkeys. Science, 325(5937), 201-204.