2026/07/09 21:00


はじめに


お酒の害というと、多くの人はまず肝臓を思い浮かべます。脂肪肝、肝炎、肝硬変。たしかに肝臓は重要です。でも、アルコールの影響をもっと身近に感じる場所があります。それが脳です。

楽しくなる。気が大きくなる。口数が増える。眠くなる。判断が雑になる。翌朝、なぜか記憶が抜けている。これらは単なる「酔ったノリ」ではありません。アルコールが、脳の働き方を変えているサインです。


脳が乱れる


脳は、ものすごく精密な通信網です。見る、聞く、話す、動く、考える、覚える。こうした働きは、脳の中で情報がうまくやり取りされることで成り立っています。

ところがアルコールが入ると、その通信が乱れます。だから、普段なら言わないことを言う。距離感を間違える。足元がふらつく。反応が遅れる。「大丈夫」と思っている本人の判断力そのものが、すでに鈍っているのです。米国の公的研究機関である NIAAA(米国立アルコール乱用・アルコール依存症研究所)は、アルコールが脳の情報伝達に影響し、記憶や判断、バランスなどに関わる働きを妨げると説明しています。

飲み会で「昨日のこと、全然覚えてない」と笑う場面があります。でも、これは本当はかなり怖いことです。ここで大事なのは、ブラックアウトは「寝ていた」わけではないことです。話したり、歩いたり、行動したりしていても、脳がその記録をきちんと残せていない状態です。


長く飲み続けると、脳そのものにも関係する?


アルコールの影響は、その場の酔いだけでは終わりません。長期の大量飲酒は、脳の構造や認知機能にも関係します。UK Biobank の中高年約36,000人を対象にした Nature Communications 2022年の研究では、飲酒量が多いほど、灰白質や白質の体積が低い方向に関連することが報告されています。これは観察研究なので、「飲酒が必ず脳を縮める」とまでは言い切れません。けれど、少なくとも飲酒量と脳の構造には気になる関連があるとは言えます。


まとめ


お酒は、楽しい時間をつくることがあります。会話をほどき、場を和ませ、気分をゆるめることもあります。でも、その楽しさは、脳の働きにアルコールが入り込むことで起きています。判断が鈍る。記憶が抜ける。反応が遅れる。長く飲み続ければ、脳の構造や認知機能とも関係してくる。そう考えると、お酒は「肝臓に悪い飲み物」というだけではありません。

飲むか、飲まないか。飲むなら、どれくらいにするか。その判断をするとき、肝臓だけでなく、脳のことも少し思い出したいものです。酔うとは、楽しくなることでもあり、脳の働きが変わることでもあるのです。