2026/07/30 21:00

はじめに
「酒は百薬の長」という言葉があります。少しくらいなら体にいい。血行がよくなる。ストレスが和らぐ。そんな説明と一緒に、お酒を飲む理由として使われてきました。
ところが、2026年6月3日時点で、国税庁のホームページから削除されていることが分かりました。削除されたページには、「適度な飲酒は心身によい影響を与えることが広く知られている」という趣旨や、飲酒にはストレスを和らげ、血行や食欲を促し、健康を守るうえで一定の効果がある、という説明が掲載されていました。
酒税を所管し、酒類産業とも深く関わる国税庁から、お酒の健康効果をうたう文章が消えた。これは、象徴的な出来事です。
きっかけは、食品安全モニターからの指摘
この記載に疑問を呈したのが、内閣府食品安全委員会の食品安全モニターでした。モニターの意見が国税庁へ共有されたところ、国税庁は、該当ページを削除予定であると回答しました。食品安全モニターは、国税庁のページにアルコールが適量なら健康増進に役立つような記載があることについて、「健康によいといえる適量が存在するわけではない」として、内容の訂正を求めました。
これは食品安全委員会そのものが下した公式な健康評価ではありません。しかし、その意見は食品安全委員会を通じて国税庁へ共有されました。
国税庁は「古い情報」として削除へ
指摘を受けた国税庁は、問題のページについて、過去の一時点における取り組みを掲載したものだと回答しました。当時、国税庁では「お酒に関する情報」ページの改修と情報整理を進めており、該当ページについては削除を予定していると説明しています。
そして2026年6月3日に開かれた食品安全委員会企画等専門調査会では、問題の記載がすでに削除されていることが報告されました。
なぜ「適度なら健康によい」が通りにくくなったのか
厚生労働省が2024年に公表した「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」は、飲酒量が少ないほど、飲酒によるリスクも少なくなるという研究を紹介しています。併せて、高血圧や男性の食道がん、女性の出血性脳卒中などでは、少量の飲酒でも発症リスクが上がる可能性があると説明しています。病気によって影響が異なり、年齢、性別、体質による個人差もあるため、「この量なら誰にとっても健康的」と言える線は引きにくいのです。
かつては「飲みすぎなければ体によい」と説明されがちでした。しかし現在は、飲酒量を減らせば、その分だけ多くの健康リスクを抑えやすいという考え方へと変わってきています。
国税庁がお酒を全面否定したわけではない
ただし、今回の削除を「国税庁がお酒の存在を否定した」と受け取るのは行きすぎです。国税庁は、「アルコールは一滴でも必ず害になる」と新たに宣言したわけではありません。お酒の文化的な価値や、酒類産業の意義まで否定したわけでもありません。
削除されたのは、適度な飲酒には健康を守る効果があると積極的に肯定していた記載です。今回の出来事は、お酒そのものの否定というより、行政機関が「健康のために飲む」という説明から距離を置いたものと見るのが正確です。
まとめ
「酒は百薬の長」は、古くから親しまれてきた言葉です。だからといって、それを現代の健康情報としてそのまま使えるとは限りません。食品安全モニターが疑問を投げかけ、国税庁が古い情報として整理し、ホームページから削除した。この一連の流れは、「少量の酒は体によい」という常識が、行政の情報発信でも通用しにくくなったことを示しています。
お酒を楽しむかどうかは、個人の選択です。しかし、「健康のために飲む」という理由は、以前よりもかなり言いにくくなりました。

