2026/08/20 21:00

「これからは、働くだけでなく投資もしなければならない」。そんな言葉を耳にする機会が増えました。では、NISAで株式や投資信託を持てば、私たちもピケティ氏のいう「r側」に回れるのでしょうか。
rとgは、何を比べているのか
フランスの経済学者トマ・ピケティ氏は、著書『21世紀の資本』で「r>g」という関係に注目しました。rは「資本収益率」です。企業の利益、配当、利子、家賃など、保有する資産から得られる利益の割合を指します。gは「経済成長率」で、経済全体の所得や生産が増える割合です。ピケティ氏は、歴史を長い目で見ると、資本収益率が経済成長率を上回る時期が多かったと指摘しました。
ここで注意したいのは、gが賃金そのものではないことです。r>gは、「投資する人」と「働く人」を直接比べた式ではありません。資本収益率が経済成長率を上回り、その収益の一部が再投資されると、すでに多くの資産を持つ人の優位が残りやすい、という話です。
NISAそのものは、金融商品ではない
NISA(少額投資非課税制度)は、株式や投資信託などから得た対象となる売却益や配当・分配金を、一定の範囲で非課税にする制度です。大切なのは、NISAそのものは金融商品ではないという点です。投資で得られる利益を増やす商品ではなく、利益にかかる税金を優遇するための「入れ物」と考えると分かりやすいでしょう。
NISAを使って株式や投資信託を保有すれば、配当や分配金、値上がり益など、広い意味で資産からの収益を得る可能性があります。その意味では、「資産から収益を得る側」への入口に立ったと言えます。ただし、投資した商品が値下がりすれば損失が出ます。非課税になるのは利益が出た場合であり、NISAが元本を保証してくれるわけではありません。
同じ4%でも、4万円と400万円
仮に、資産から毎年4%の収益を得られたとします。100万円を持つ人の利益は4万円ですが、1億円を持つ人なら400万円です。収益率は同じでも、増える金額には100倍の差があります。さらに、その利益を使わずに再び運用すれば、翌年からは利益が利益を生む「複利」が働きます。
ここで効いてくるのが、元手と時間です。NISAによって少額から資産を持つことはできますが、最初から大きな資産を持つ人との差が消えるわけではありません。一方で、相続では、前の世代が積み上げてきた資産と、その「時間の成果」が引き継がれます。
人は「r側」と「働く側」に分かれない
そもそも、「r側」という言葉は、仕組みを分かりやすくするための便宜的な表現です。現実の人間が、資産を持つ人と働く人に、きれいに分かれているわけではありません。会社員として給料を受け取りながら、NISAで投資信託を持つ人もいます。働いて得る所得と、資産から得る所得を同時に持つことはできます。
問題は、どちら側にいるかではありません。どれほどの資産を持ち、そこからどれほどの収益を得られるか。そして、その収益を再び運用できる余裕があるかです。
スタート地点はそろわない
NISAで投資を始めれば「r側」に回れるのか。資産から収益を得る可能性を持つという意味では、答えは「はい」です。一方で、投資に回せる余裕、最初の資産額、運用できる期間は人によって違います。NISAは、資産を持つための入口を広げる制度ですが、資産格差を自動的になくす制度ではありません。

