2026/10/01 21:00


禁煙した人がよく口にするのが「ごはんがおいしくなった」という感想です。タバコ代が浮くうえに食事までおいしくなるなら言うことなしですが、本当なのでしょうか。調べてみると、喫煙と味覚の関係は1960年代ごろから研究されていて、舌の状態を直接観察した研究もあります。


舌の先にある「味のセンサー」


鏡で舌を見ると、表面が細かくざらついています。このざらつきの正体は「乳頭(にゅうとう)」と呼ばれる小さな突起です。そのうち、舌の先の赤っぽい粒が「茸状乳頭(じじょうにゅうとう)」で、名前のとおりキノコのような形をしています。ここに、味を感じ取る「味蕾(みらい)」が入っています。


喫煙者の舌を拡大すると


ある研究グループが、舌の表面を拡大して見られる「接触内視鏡」で喫煙者の舌を調べたところ、茸状乳頭の数や形、周りの血管の様子が、吸わない人とは異なっていました。吸ってきた量が多い人ほど、その違いは大きかったそうです。

実際に味は感じにくくなっているのか。これを確かめるのに使われるのが「電気味覚検査」です。舌に弱い電気を流すと、ピリッとした金属っぽい酸味を感じます。どこまで弱い電気で味が分かるかを測れば、味覚の鋭さを数字で比べられるというわけです。

この検査で、喫煙者の多くは、吸わない人より強い電気でないと味を感じませんでした。ただ、長く吸っているのに吸わない人とほとんど変わらない人もいて、誰にでも同じように影響が出るわけではなさそうです。

フランスで喫煙者83人と非喫煙者48人を比べた研究でも、喫煙者のほうが味を感じにくいという結果が出ています。こちらでは、1日に吸う本数が多い人ほど、味覚の低下が大きくなっていました。


禁煙2週間で、舌の先から戻りはじめる


このフランスの研究では、禁煙した24人のその後も調べています。回復が早かったのは舌の先と縁で、禁煙から2週間ほど。舌の奥は9週間ほどで戻りました。舌の真ん中あたりは遅く、回復が見られるまでに2か月以上かかっています。場所によって差はあっても、数週間から数か月で、吸わない人に近いところまで戻っていったことになります。

一方で、はじめに紹介した研究グループは、少し違う結果を報告しています。禁煙から平均3.2か月後の舌を調べると、茸状乳頭の数は増え、形や血管もよくなる傾向があったのに、電気味覚検査の数値ははっきりとは改善しなかったのです。見た目は戻っても、働きが戻るにはもっと時間がかかるのか、それとも戻りきらない部分があるのか。どちらの研究も調べた人数は多くなく、今のところ、はっきりしたことは言えません。


鼻をつまむと、味はぼやける


「味」と言うと舌のことを考えがちですが、鼻をつまんで食べると、何を食べているのか分かりにくくなります。食べ物の風味は、舌で感じる味と、鼻を抜ける香りが合わさってできているからです。

その嗅覚も、喫煙の影響を受けます。アメリカの研究では、吸ってきた量が多い人ほど、においを嗅ぎ分ける力が落ちていました。一方、やめた人では、禁煙してからの年数が長いほど嗅覚がよい傾向にありました。複数の研究をまとめた分析でも、今吸っている人は嗅覚障害のリスクが高いのに対し、過去に吸っていた人ではそうした差ははっきりしませんでした。

禁煙した人の「ごはんがおいしくなった」は、舌と鼻が少しずつ戻ってきた実感なのでしょう。加熱式タバコや電子タバコについては研究がまだ少なく、紙巻きタバコと同じように考えてよいのかは分かっていません。