2026/10/08 21:00


「紙タバコをやめて電子タバコにしたんです。」こんな話を聞いたことはないでしょうか。煙が出ず、においも少ない電子タバコには、紙タバコよりも体にましな印象があります。


「電子タバコ」と「加熱式タバコ」は別のもの


電子タバコは、香りのついた液体(リキッド)を電気で温め、出てきた蒸気を吸うものです。タバコの葉は使いません。ニコチン入りのリキッドは医薬品医療機器等法(薬機法)の承認が必要ですが、国内で承認された製品はありません。そのため、日本の店頭に並んでいるのはニコチンを含まないものです。

一方、IQOS(アイコス)などの加熱式タバコは、タバコの葉を燃やさずに温めて吸うもので、ニコチンを含みます。法律上も紙タバコと同じ「たばこ」の仲間です。

海外では、「電子タバコ」といえば、ニコチン入りのものを指します。この記事で紹介する研究も、主にニコチン入りの電子タバコについてのものです。


「紙タバコより害が少ない」は本当か


イギリス政府の保健機関である健康改善・格差対策局(OHID:Office for Health Improvement and Disparities)は、2022年の報告書で「短期から中期的には、電子タバコのリスクは喫煙のごく一部にとどまる」とまとめました。2024年には王立内科医協会(RCP:Royal College of Physicians)も同じ趣旨の報告を出しています。

紙タバコの害の多くは、葉が燃えるときに出る煙からきています。燃やさない電子タバコで取り込む有害物質が少なくなるのは、そのためです。ここまでは、多くの専門家の見方がおおむね一致しています。

ただ、同じ報告書には「電子タバコは無害ではない。とくにタバコを吸ったことのない人にとっては」という一文もあります。紙タバコと比べれば少ない、というだけで、害がなくなるわけではありません。


「少ない」と「安全」のあいだにあるもの


1つ目は、長い目で見た影響がまだわかっていないことです。電子タバコが広まってから、まだ十数年しかたっていません。OHIDも、研究のほとんどは短期・中期の影響しか見ていないと認めています。RCPは、長期的な影響を正確に見積もるには数十年かかるとしています。紙タバコと肺がんの関係がはっきりするまでにも、長い年月がかかりました。

2つ目は、ニコチンへの依存が続くことです。ニコチン入りの電子タバコに替えても、ニコチンをとる習慣そのものは変わりません。

3つ目は、中身がはっきりしない製品があることです。2010年の国民生活センターの調査では、「ニコチンなし」と表示されていながらニコチンが検出された製品が見つかりました。また国立保健医療科学院の分析では、ニコチンの有無にかかわらず、製品によっては蒸気から発がん性のあるホルムアルデヒドなどが検出されています。ニコチンなしなら安心、とも言いきれないのです。


両方吸うと、減らしたつもりでも


紙タバコを少し減らして、電子タバコと両方使う人も少なくありません。アメリカの約7,000人のデータを分析した2021年の研究(米国心臓協会の学術誌『Circulation』掲載)では、両方を使う人の、心臓や血管の病気に関わる体内の指標は、紙タバコだけを吸う人とほとんど変わりませんでした。電子タバコだけを使う人では、こうした指標の上昇は見られませんでした。

「害が少ない」という恩恵があるとしても、それは紙タバコを完全にやめた場合の話になりそうです。紙タバコの本数を減らしただけでは、体にとっての違いは思ったより小さいのかもしれません。


若い世代への広がり


もうひとつ心配されているのが、若い人への広がりです。RCPの報告によれば、イギリスで電子タバコを使う11~17歳の割合は2023年に7.6%まで増えました。フルーツやお菓子のような香り、カラフルなデザインは、タバコに興味のなかった人にも手を伸ばしやすくします。


イギリスでは、紙タバコをやめたい人への選択肢として電子タバコを勧めています。たしかに、いま紙タバコを吸っている人が完全に切り替えれば、害を減らせる可能性はあります。けれども、吸っていない人が始める理由にはなりませんし、「替えたからもう安心」というものでもありません。「どちらも吸わない状態」を考えると、電子タバコの見え方も少し変わってくるでしょう。