2026/10/15 21:00


渋谷や下北沢を歩いていると、「シーシャ」の看板をよく見かけるようになりました。甘いフルーツの香りに、ぽこぽこと泡立つ水の音。ソファに座って、友だちと何時間もおしゃべりする。紙タバコは吸わないけれど、シーシャならたまに吸う、という人もいるかもしれません。


水タバコってどんなもの?


水タバコは、香りをつけたタバコの葉を器具の上に詰め、その上に置いた炭で熱して、出てきた煙をいったん水にくぐらせてから、長いホースで吸うものです。中東や南アジアで何百年も前から親しまれてきました。紙タバコとの大きな違いは、吸っている時間の長さです。紙タバコ1本は数分で終わりますが、水タバコは1回が1時間前後になることも珍しくありません。また、タバコの葉を使うものは日本の法律上も「たばこ」の一種で、20歳未満は吸えません。


水を通しても、きれいにはならない


「水でろ過されるから、紙タバコより軽い」とは、水タバコでよく聞く話です。ところが、アメリカ疾病対策センター(CDC:Centers for Disease Control and Prevention)は「水タバコの水は煙をろ過しない」と報告しています。水を通ると煙が冷えてのどへの刺激はやわらぎますが、有害な物質の多くは残ったままです。さらに水タバコでは、葉を熱するための炭そのものからも、一酸化炭素や金属、発がん性のある物質が出ています。


「紙タバコ100本分」の意味


水タバコの話でよく出てくるのが、「1回で紙タバコ100本分」という数字です。もとは世界保健機関(WHO:World Health Organization)の専門家グループの報告で、1回のセッションで、紙タバコ100本かそれ以上に相当する量の煙を吸い込むことがある、という内容です。

ここで比べているのは、吸い込む「煙の量」です。CDCによると、1時間の水タバコで吸い込む煙はおよそ9万mL。紙タバコ1本ではおよそ500~600mLなので、量にすると100~200倍になります。一方、一酸化炭素の量で比べると、1回の水タバコで紙タバコ1本の9倍近くです。つまり「紙タバコを100本吸うのと同じだけ体に悪い」という意味ではありません。

長い目で見た影響についても、研究が進んでいます。2017年に発表された、複数の研究をまとめて分析した論文では、水タバコを吸う人は吸わない人に比べて、肺がんで約2倍、口のがんで約4倍、慢性閉塞性肺疾患(COPD:Chronic Obstructive Pulmonary Disease)で約3倍、リスクが高いという結果でした。病気との関連を示したもので研究の数もまだ十分ではありませんが、気になる数字です。


炭から出る一酸化炭素


水タバコで特に気をつけたいのが、一酸化炭素中毒です。一酸化炭素は色も臭いもないため、吸っていても気づきにくいのが厄介なところです。

東京都が2025年に行った試験では、約10㎡の閉め切った部屋で水タバコを吸うと、空気中の一酸化炭素の濃度が約300ppm(ppmは100万分の1を表す単位)まで上がりました。1~2時間で頭痛や吐き気が起こるとされる濃度で、そばにいる人にも同じ危険があります。ホースから直接とった煙では1万ppmを超えていました。

実際に事故も起きています。筑波大学などのチームが2026年に発表した研究によると、渋谷区などを受け持つ東京消防庁の管内では、2018年から2023年にかけて、水タバコによる一酸化炭素中毒の救急搬送が月に1件ほどのペースで記録されていました。多くは若い人です。世界の報告をまとめた分析では、約4人に1人は店を出てから具合が悪くなっていました。消費者庁も、シーシャバーを出て電車に乗ったあと、降りたところで立てなくなって意識を失った20代の事例を紹介しています。


「ニコチンなし」なら大丈夫?


シーシャのお店では、タバコの葉を使わないハーブや「ノンニコチン」のフレーバーを選べることもあります。ニコチンがないなら安心、と思いたくなりますが、炭で熱して煙を吸うという仕組みは変わりません。

カナダなどの研究チームが調べたところ、タバコを使わない水タバコ製品の煙にも有害物質や発がん性物質が含まれ、その量はタバコ製品と同じか、それ以上でした。一酸化炭素も、炭を使う以上は同じように出ます。ニコチンの心配は減っても、煙の害までなくなるわけではないのです。


吸い口の使い回しにも注意


もうひとつ見落とされがちなのが、ホースや吸い口の使い回しです。オーストラリアのニューサウスウェールズ州保健省は、共用の吸い口やホースを通じて、ヘルペスや肝炎、肺の感染症がうつるおそれがあると注意を呼びかけています。


「紙タバコと比べてどうか」で考えると、つい甘く見積もってしまいます。けれど比べる相手を「吸わない状態」にしてみると、煙を1時間吸い続けることの重みが見えてきます。