2026/10/29 21:00


ホテルの禁煙ルームのはずなのに、なんとなくタバコのにおいがする。中古車のシートに、前の持ち主のタバコのにおいが染みついている。そんな経験はないでしょうか。


「三次喫煙」とは


タバコを吸う人が自分で吸い込むのが一次、まわりの人が煙を吸い込むのが二次(受動喫煙)だとすると、三次喫煙は、タバコを消したあとに残った成分を吸い込んだり、触れたりすることです。英語では「サードハンドスモーク」、日本では「残留受動喫煙」と呼ばれることもあります。2009年ごろ、アメリカの小児科医たちの論文をきっかけに、この言葉が広まりました。

タバコの煙に含まれるニコチンなどの成分は、壁やカーテン、ソファ、カーペット、服、髪の毛、そしてほこりにくっつきます。部屋に残るタバコのにおいは、その目印のようなものです。煙が見えなくなっても、成分は部屋の中にとどまり、少しずつ空気中に戻ったり、手や口から体に入ったりします。


残った成分が、別の物質に変わる


意外なのは、残った成分がそのままとは限らないことです。2010年、アメリカのローレンス・バークレー国立研究所のチームが、壁などについたニコチンが、空気中の亜硝酸という物質と反応して、発がん性のある物質(たばこ特異的ニトロソアミン)に変わることを実験で示しました。亜硝酸は、換気扇のないガスコンロやガスストーブなどから出ることがあります。

タバコの火を消したあとに、部屋の中で新たに有害な物質ができることがある、というわけです。研究チームは、タバコを吸っている間だけ窓を開けたり換気扇を回したりしても、この問題はなくならないと指摘しています。


一番さらされやすいのは赤ちゃん


三次喫煙の影響を受けやすいと考えられているのが、赤ちゃんや小さな子どもです。床をはいはいし、カーペットや服に顔をうずめ、手に触れたものを何でも口に入れます。大人よりも体が小さいぶん、同じ量でも体への負担が大きくなります。ベランダや外で吸ってから家に入っても、髪や服についた成分は一緒に持ち込まれます。抱っこするとき、赤ちゃんはちょうどそこに顔を近づけることになります。


引っ越したあとも、映画館にも


三次喫煙のやっかいなところは、吸った本人がいなくなっても残ることです。サンディエゴ州立大学のチームが2010年に発表した調査では、喫煙者が出ていったあとの住まいを調べました。空き部屋の期間があり、次の人が住む前に掃除がされていても、壁やほこりにはタバコの成分が残っていました。そこに新しく住み始めたタバコを吸わない人の指先からはニコチンが見つかり、尿の検査でも、タバコの成分を取り込んだしるしが見られました。

もうひとつ、ドイツのマインツにある禁煙の映画館で行われた研究もあります(2020年発表)。館内では誰も吸っていないのに、観客が入ってくると、空気中のニコチンなどが急に増えました。観客の服や体についていた成分が持ち込まれていたのです。その量は、1時間あたり紙タバコ1~10本分の副流煙にさらされるのに相当する場合があった、と報告されています。大人向けの映画や夜遅くの上映ほど多い傾向がありました。


わかっていること、まだわからないこと


タバコの成分が部屋や服に残ること、それが別の物質に変わる場合があること、そして吸わない人の体にも入ってくることは、研究で確かめられています。

一方で、三次喫煙が原因で、人がどれくらい病気になるのかは、まだはっきりしていません。動物や細胞を使った実験では体への影響を示す報告がありますが、人の体で、どのくらいの量にさらされると、どの程度リスクが高まるのか。そこはまだ研究の途中です。

だからといって、気にしなくていいということにもなりません。家の中や車の中では吸わない。赤ちゃんを抱っこする前には、手を洗い、できれば服を着替える。中古の住まいや車を選ぶときには、においを確かめる。できることは、どれも身近なものです。