2026/11/05 21:00

午後の会議で、話の途中なのにまぶたが重くなってくる。窓を閉め切った部屋に何時間かいると、頭がぼんやりしてくる。そんな経験はないでしょうか。昼ごはんのせい、寝不足のせい、と思いがちですが、部屋の空気が原因のこともあります。
人が集まると、CO2は増えていく
私たちは呼吸のたびに二酸化炭素を吐き出しています。屋外の空気に含まれる二酸化炭素は、およそ425ppmです。ppmは「100万分の1」を表す単位で、425ppmなら空気全体の約0.04%にあたります。
窓もドアも閉めた部屋に人が集まると、吐き出された二酸化炭素がたまって、この数字がどんどん上がっていきます。小さな会議室に数人集まれば、1時間ほどで1,000ppmを超えることも珍しくありません。
CO2そのものは、それほど怖くない
では、二酸化炭素が増えると体に悪いのでしょうか。
じつは、ふつうの部屋で上がる程度の濃度であれば、二酸化炭素そのものが毒になるわけではないと考えられています。職場の環境を定めた国の規則(事務所衛生基準規則)でも、上限は5,000ppmです。体に目立った不調が出てくるのは、それよりずっと高い、数%(数万ppm)といった濃度になってからです。
それなのに、ビルの空気の基準を定めた法律(建築物衛生法)では「1,000ppm以下」、学校の教室では「1,500ppm以下が望ましい」とされています。
CO2は「換気が足りているか」の目印
理由は、二酸化炭素が換気の目印として使われているからです。人のいる部屋では、二酸化炭素と一緒に、体から出るにおいや汗の成分、水蒸気なども空気中に出ています。これらを一つずつ測るのは大変ですが、二酸化炭素なら比較的かんたんに測れます。二酸化炭素がたまっている部屋は、ほかのものもたまっている部屋だ、と考えるわけです。
この考え方は古く、19世紀のドイツの衛生学者ペッテンコーファーが、室内の二酸化炭素を空気の汚れの目安にすることを提案しています。1,000ppmという数字も、そのころから使われてきました。
眠くなるのは、CO2のせい?
気になるのは、会議室の眠さです。じつはこの点、研究者のあいだでも意見が分かれています。
まず、「CO2そのものが頭の働きに影響する」という研究です。2012年、アメリカの研究チームが学生22人に、二酸化炭素の濃さを変えた部屋で、それぞれ2時間半ほど過ごしてもらいながら判断力のテストを受けてもらいました。すると、1,000ppmの部屋では9項目中6項目で、2,500ppmの部屋では7項目で成績が下がったと報告されています。ただし研究チーム自身も、この結果はほかの研究で確かめる必要があると述べています。
2015年には、ハーバード大学のチームが、会社員24人に模擬オフィスで6日間働いてもらう実験をしました。換気の量を増やし、建材などから出る化学物質(揮発性有機化合物、VOC)も減らした日は、ふつうのオフィスを想定した日に比べて、テストの点数が大きく上がりました。さらに、換気はよいまま二酸化炭素だけを足した日にも、点数が下がる傾向が見られたそうです。
反対の結果もあります。
デンマーク工科大学のチームは2017年に、25人を対象に少し違うやり方で調べました。ひとつは、換気はしっかりしたまま、純粋な二酸化炭素だけを加えて3,000ppmにした部屋。もうひとつは、換気を減らし、人の体から出たものごとたまって3,000ppmになった部屋です。結果は、二酸化炭素だけを加えた部屋では、テストの成績も体調もほとんど変わりませんでした。ところが換気を減らした部屋では、頭痛や眠気、だるさを訴える人が増え、一部のテストの成績も下がりました。
結果が分かれるのはなぜ
どの研究も参加者は20人台と少なく、使ったテストや部屋で過ごした時間もばらばらです。そのため、どれか一つの結果だけで白黒をつけるのは難しいのが現状です。
ただ、換気の量そのものを変えて比べたハーバード大学とデンマーク工科大学の研究では、どちらも換気の悪い部屋のほうが、頭の働きや体調によくない変化が出やすいという結果でした。眠くなったりぼんやりしたりする原因は、二酸化炭素だけでなく、人の体から出るさまざまなものや、こもった熱や湿気が重なったものなのかもしれません。

